漫画『人間失格』伊藤潤二作 第3巻発売 

 先月、太宰治原作で伊藤潤二作『人間失格』の第3巻が発売されていた。第2巻では葉蔵とヨシ子のもとへなぜか父が登場したり(それは父の霊なのかよくわかりませんが)、出版社の男とヨシ子が絡み合う姿を見て興奮し、葉蔵自らも公園でそれを思い出して絶頂に果てる描写があるが、第1巻のように登場人物が自殺したり、殺し合ったりなど原作の度を超え過ぎた場面はあまりなかった。第1巻のセッちゃんやその子供も登場せず、雪の降る日に吐血し、地面に大きな日の丸ができるところで話は終わっていた。
 そして第3巻はどうなるのかと読んでみると…
c0316988_23040934.jpg
 第1巻と同じく、またもや登場人物が無残にも死んでいく…。妻のヨシ子は精神が病んでいき、被害妄想や強迫観念の塊になり、薬屋の奥さんに「毒草をください…主人を殺して、私も死ぬんです。」と言い、毒草を勝手に持ち出し自殺。
 さらに薬屋の奥さんは、薬屋兼自宅が火事になり、お義父さんを助けに行くが二人一緒に焼死体となって発見される。挙句の果てに、「ヒロ子(薬屋の奥さん)は、かけがえのない存在でした。紆余曲折の末、ようやく出会えた運命の女だったのです。」などと涙している。ヨシ子ではないのか? 信頼の天才である、汚れを知らぬ尊きヴァジニティを持った純粋無垢なヨシ子を汚し、精神を狂わせたのは他でもない大庭葉蔵だ。ヨシ子の存在がどうでもよくなってる。
 その後、自殺をしようかと思っていたところで、堀木、ヒラメ、マダムによって精神病院に連れて行かれ、そこで一応は、「俺の偽りで級友の竹一を自殺に追いやった。親戚の姉妹を破滅させた。姉は妹に殺され、その妹との間には呪われた子供を作った。不幸なカフェの女給と心中を図り、女だけ死なせた。疑う事を知らぬ無垢なタバコ屋の娘をたぶらかし、疑心暗鬼の塊にして狂い死にさせた。さらにはなんの罪もない薬局の奥さんを、真っ黒焦げの焼死体にした!」と、自分は許されることはないと頭を抱えて懺悔するが…、なんだろう、読んでいてなんにも響いてこない。自分のことを『人間失格』と断定しても何ら違和感がない。そりゃそうだと納得する。
 セッちゃんと竹一に似た醜い子供がどうなったのかと先を読んでいくと、同じ精神病院に二人が居り、原作のラストは東北の温泉地の村はずれで醜い女中と茅屋に二人で住むが、こちらはその女中とセッちゃんと子供と葉蔵の4人で暮らすことになる。(女中が気の毒である)そしてセッちゃんに毎日罵倒され叩かれ、犯され精気を吸い取られて生活し、「今の自分には幸福も不幸もありません。ただ一さいは過ぎていきます」と終わる。葉蔵のせいで竹一は自殺し、親戚姉妹の二人を妊娠させ、妹は姉を殺害、またヨシ子は精神的に狂い自殺、薬屋の奥さんも焼死する。最低であろう。それで「幸福も不幸もありません。ただ一さいは過ぎていきます」と原作通りに言わせるのもどうかと思うが。

 原作とは全く別物である。別物として読めば、大庭葉蔵の違う意味の人間失格を見て楽しめるのかもしれないが、やはり原作に想い入れがあるためどうしても違和感、不快感は拭えない。品がない。
 余談になるが、親戚姉妹の姉から妊娠を打ち明けられたときの葉蔵のポーズが、太宰治が学生時代に芥川龍之介をマネしたポーズでマニアックに描いている部分もあり、そこは良かった。指摘したいところが多くあるが、あえて書かないでおきます。
 下手にアレンジせず原作に忠実であれば素晴らしい漫画になったのではないかと思う。私はこの漫画を読んで、改めて原作はやはり素晴らしい作品だと実感した。
 太宰治がこの漫画を読んだらどう感じただろうか。


Commented by tarukosatoko at 2018-09-30 10:28
太宰と関係なければ、無茶苦茶な話として存在したかもしれないですが、表紙に「太宰治」と名前も書かれているし、名誉毀損みたいなものではないかとか思いますが。名誉毀損というほど太宰治も立派ではないのかもしれませんが。
太宰が生きていて、この漫画について何と書くのか(書くでしょうか?!)読みたいものです。
Commented by dazaiosamuh at 2018-10-03 21:42
> tarukosatokoさん、この漫画はせっかく雰囲気や人物の特徴なども原作にあっている(と私は思っている)のに、原作の登場人物を簡単にしかも無残な死に方をさせており、内容がひどかったです。原作に忠実に描いていればどれほどよい作品になったことか。
太宰が読んだら、ひどく憤慨するでしょうね。文学とは言えませんから。
by dazaiosamuh | 2018-09-15 23:24 | 太宰治 | Comments(2)