太宰治と甲府 №15 甲府・旧歩兵四十九連隊練兵場跡

 太宰が短編『美少女』で湯村温泉の旅館明治を舞台にしたことは以前にも書いたが、その湯村へ通う際に、太宰も妻・美知子も甲府四十九連隊練兵場付近を通っている。
家内はからだじゅうのアセモに悩まされていた。甲府のすぐ近くに、湯村という温泉部落があって、そこのお湯が皮膚病に特効を有する由を聞いたので、家内をして毎日、湯村へ通わせることにした。私たちの借りている家賃六円五拾銭の草庵は、甲府市の西北端、桑畑の中にあり、そこから湯村までは歩いて二十分くらい。(四十九聯隊の練兵場を横断して、まっすぐに行くと、もっと早い。十五分くらいのものかも知れない。)家内は、朝ごはんの後片付附がすむと、湯道具持って、毎日そこへ通った。』(美少女)
c0316988_12522293.jpg
 旧歩兵第四十九聯隊の営門跡碑。この付近に営門があった。かつて多くの兵士が大声を出して訓練をしていた場所だが、今はひっそりと碑が、ここに練兵場があったことを示しているのみである。
c0316988_12525343.jpg
c0316988_12533748.jpg
 福祉プラザの駐車場の敷地内にさりげなく建てられている。気付かない通行人も多い。

『美少女』で、『とにかく別天地であるから、あなたも、一度おいでなさい』と言われ、自分もさっそくその温泉へと向かう。
早朝、練兵場の草原を踏みわけて行くと、草の香も新鮮で、朝露が足をぬらして冷や冷やして、心が豁然とひらけ、ひとりで笑い出したくなるくらいである、という家内の話であった。私は暑熱をいい申しわけにして、仕事を怠けていて、退屈していた時であったから、早速行ってみることにした。朝の八時頃、家内に案内させて、出掛けた。たいしたことも無かった。練兵場の草原を踏みわけて歩いてみても、ひとりで笑い出したくなるようなことは無かった。湯村のその大衆浴場の前庭には、かなり大きい石榴の木が在り、かっと赤い花が、満開であった。甲府には石榴の樹が非常に多い。』(美少女)

 『練兵場の草原を踏みわけて行くと…』とあるが、練兵場というのは自由に中を行き来できるものなのでしょうか。『朝露が足をぬらして冷や冷やして、心が豁然とひらけ、ひとりで笑い出したくなる…』などとは妻・美知子は言わないと思われるので、太宰の誇張であろう。

御崎町を西の端まで歩いて相川の橋を渡るともう市外で、甲府四十九連隊の練兵場に続いている。連れ立って散歩していて、兵隊さんの行進に出くわして、工合のわるい思いをすることもあった。朝夕は近くの甲府中学に通う中学生がぞろぞろ通る。中学生と兵隊さんとをのぞけば、この町は人通りも少なく、大きな商店街もなく、格子作りのしもたやの並んだ眠ったような町であった。』と妻・美知子は御崎町のことを『回想の太宰治』の中で語っている。
c0316988_12540005.jpg
c0316988_12542313.jpg
 写真・車道の橋が相川橋で、歩道の橋は竜雲歩道橋となっている。
c0316988_12544989.jpg
 川幅は狭いが、長閑な風景だ。
c0316988_12551467.jpg
 甲府四十九連隊は、現在の緑ヶ丘スポーツ公園全体を練兵場として使用していた。かなり大きな練兵場だったようだ。『連れ立って散歩していて、兵隊さんの行進に出くわして、工合のわるい思いをすることもあった』とあるので、太宰と二人でときおり練兵場周辺や湯村まで散歩して、二人だけの穏やかな時間を過ごしたのだろう。
 甲府は太宰のゆかりの場所が多くあり、歩いていてなかなか飽きない。


Commented by soseranzo at 2018-05-03 22:23
黒森様

太宰治を愛する黒森さんのブログを発見して、いろいろ読ませていただいております。ことさら、直近の記事は、甲府の話で、しばしば甲府に通っていたことのある自分としては、大変懐かしく思いました。よく言われるように、甲府は太宰にとって、人生の再スタートを切った場所です。興味深く拝読いたしました。これからも読ませていただきます。
Commented by dazaiosamuh at 2018-05-07 10:38
> soseranzoさん、こんにちは!甲府によく通っていたとのことですが、 soseranzoさんも甲府の太宰ゆかりの場所を歩かれたのでしょうか!? 私は2日間をかけて歩いたのですが、なかなかじっくりまわれなかった場所もあるので、後で改めて訪れたいと思っています。甲府はゆかりの場所も多く、 soseranzoさんも書かれています通り、人生の再スタートを切った場所ですので、いかに太宰の人生において重要な土地であったかがうかがい知れます。
私の記事の更新は遅いですが、焦らずじっくり書いていこうと思っていますので、よろしくお願いします。
by dazaiosamuh | 2018-04-29 13:01 | 太宰治 | Comments(2)