太宰治と甲府 №4 太宰が逗留した『旅館明治』 その②

 旅館明治の浴場を舞台に書かれた作品『美少女』の中で、『湯村のその大衆浴場の前庭には、かなり大きい石榴の木が在り、かっと赤い花が、満開であった。甲府には、石榴の樹が非常に多い。
 浴場は、つい最近新築されたものらしく、よごれが無く、純白のタイルが張られて明るく、日光が充満していて、清楚の感じである。』と様子が描かれているが、旅館明治のパンフレットによると、どうやらかなり修飾して書かれているようだ。
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 旅館明治の男湯入口。日帰り入浴客は私1人だけでがらんとしている。

 かなり清潔感あふれる様子で書いているが、しかし、湯船に浸かってみると、『私は湯槽にからだを滑り込ませて、ぬるいのに驚いた。水とそんなにちがわない感じがした。しゃがんで、顎までからだを沈めて、身動きもできない。寒いのである。ちょっと肩を出すと、ひやと寒い。だまって、死んだようにして、しゃがんでいなければならぬ。とんでもないことになったと私は心細かった。

 水とちがわないとは明らかに誇張して書いているが、旅館明治は、『昔はそれほど熱い湯ではありませんでした。』とパンフレットに記載しているので、実際に湯に入った太宰は、そのことを大袈裟に表現したものと思われる。しかし、当時の湯村温泉は、『いくつかの源泉をはさんで十軒ほどの旅館が建てられていました。』(旅館明治 パンフレット)とあるので、そんな中、旅館明治を少なくとも2回逗留しているということは、なんだかんだと気に入っていたのでしょう。
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 実際に私も入ってみましたが、たしかにほかの温泉よりも若干ぬるめの湯に感じました。事実、旅館明治は源泉のままだと少しぬるいようで、一度湧かし直しているようです。しかし、熱い湯につかるよりも、ぬるめの湯にゆっくり長く浸かり、じわじわと汗を流すほうが、身体には良いとされているので、湯治には最適の湯であるのでしょう。たしかに長く入っていると、じわじわと汗が流れてくる。身体の毒素が一緒に流れてくれるような気がした。

 太宰治と甲府はまだまだ続きます

by dazaiosamuh | 2018-01-24 11:08 | 太宰治 | Comments(0)