太宰治 お伽草紙『カチカチ山』 №3 たぬき茶屋

 ロープウェイを降りて少し上がると、河口湖と富士山を眺めることができる展望台に辿り着く。ここには、『たぬき茶屋』というのがあり、名物たぬき団子を食べることができる。ここで小腹を満たしながら、富士山を眺めるのもいいかもしれません。他にも、カチカチ山のうさぎさんを祀った『うさぎ神社』や、「円」と「縁」を意味した、円の中にかわらけを投げる『かわらけ投げ』、さらには恋愛成就、無病息災の御利益があると言われる『天上の鐘』というパワースポットもある。
 私はここでおみくじを引いたら、見事『大吉』でした。今まで生きて来て『大吉』を引いたことは一度も無かったので、来てよかったです。今年は良い年になりそうな予感がします。
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 美少女の兎と中年の狸はせっせと柴を刈っていた。肝心の狸の働きぶりは、一心不乱どころか、ほとんど半狂乱のようなあさましい有様であった。ただ下品に、ううむ、ううむ、と兎に見てもらいたく、縦横無尽に荒れ狂うのであった。そして狸は自慢げに、ああ、手がひりひりすると言って、手に出来た豆を見せながら、勝手に休憩を始める。以下、『カチカチ山』より。
ぐいとその石油缶ぐらいの大きさのお弁当箱に鼻先を突込んで、むしゃむしゃ、がつがつ、ぺっぺっ、という騒々しい音を立てながら、それこそ一心不乱に食べている。兎はあっけにとられたような顔をして、柴刈りの手を休め、ちょっとそのお弁当箱の中を覗いて、あ! と小さい叫びを挙げ、両手で顔を覆った。何だか知れぬが、そのお弁当箱には、すごいものがはいっていたようである。

 どんな弁当なのでしょうね。作者である太宰本人も分からないような、得体の知れないものが入っていたのでしょう。
 それから狸は、『ああ、食った、眠くなった、どれ一眠り…』と言っては勝手に昼寝を初める。そして、お昼頃おき、兎はお爺さんのもとへ柴を持って行ってあげましょう、と提案し、蛇が出たら怖い、とワザと狸を先頭に歩かせる。
 そして、いよいよここから兎の悪辣な仕打ちが始まっていく。

おや? 何だい、あれは。へんな音がするね。なんだろう。お前にも、聞えないか?何だか、カチ、カチ、と音がする。」
「当り前じゃないの? ここは、カチカチ山だもの。」
「カチカチ山? ここがかい?」
「ええ、知らなかったの?」
「うん。知らなかった。この山に、そんな名前があるとは今日まで知らなかったね。しかし、へんな名前だ…」


 この時狸は、『この山で生れて、三十何年かになるけれども…』と口を滑らせる。
まあ! あなたは、もうそんな年なの? こないだ私に十七だなんて教えたくせに、ひどいじゃないの。顔が皺くちゃで、腰も少し曲がっているのに、十七とは、へんだと思っていたんだけど、それにしても、二十も年をかくしているとは思わなかったわ。それじゃあなたは、四十ちかいんでしょう、まあ、ずいぶんね。」
 狸はひどく狼狽し、『いや十七だ、十七。十七なんだ。』などと言い、挙句の果てに、兄の口癖が伝染したんだ、と突拍子もない嘘を言いだし、兎は頗る呆れかえる。
まったく世の中は、これでなかなか複雑なものだからねえ、そんなに一概には行かないよ。兄があったり無かったり。」
「まるで、意味が無いじゃないの。」

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 くだらない滑稽噺をしているうちに、しだいに今度は、火が燃えているような匂いと音に気がつく。
気のせいかなあ。あれあれ、何だか火が燃えているような、パチパチボウボウって音がするじゃないか。」
「それやその筈よ。ここは、パチパチのボウボウ山だもの。」
「嘘つけ。お前は、ついさっき、ここはカチカチ山だって言った癖に。」
「そうよ、同じ山でも、場所に依って名前が違うのよ。富士山の中腹にも小富士という山があるし、それから大室山だって長尾山だって、みんな富士山と続いている山じゃないの。知らなかったの?」
「うん、知らなかった。そうかなあ、ここがパチパチ山のボウボウ山とは、おれが三十何年間、いや、兄の話に依れば、ここはただの裏山だったが、いや、これは、ばかに暖くなって来た。地震でも起こるんじゃねえだろうか。何だかきょうは薄気味の悪い日だ。やあ、これは、ひどく暑い。きゃあっ! あちちちち、ひでえ、あちちちち、助けてくれ、柴が燃えてる。あちちちち。」


 時すでに遅し。狸は悲鳴をあげながら山を駆け下りて行くのでした。この時、狸が「あちちちち」と駆け下りたのが、ロープウェイの眼下に見えた崖らしいです。
 それにしても、後ろから直接じゃないにしても、背負っている物に火をつけるというのは、よくよく考えてみれば相当残酷なことですね。しかし、冷静に考えてみれば、狸も柴が燃えているのに気付いたのならば、気づいた時点で背負っている柴をすぐにおろせば軽傷で済んだのではないでしょうか。(こんなことを言ったらきりがないですが…)

 このあとさらに、薬売りに変装した兎が、狸を更なる地獄に落とすために近づいていく。
 次回は、その場面を書きます。

by dazaiosamuh | 2015-02-13 20:42 | 太宰治 | Comments(0)