太宰治 お伽草紙『カチカチ山』 №2 ロープウェイ

 太宰の『カチカチ山』の舞台となった天上山へは、『カチカチ山ロープウェイ』か『あじさいハイキングコース』の二通りがあり、三つ峠登山口までは、前者が約3分、後者がおよそ45分程度になる。
 太宰の文学碑があるのは、『あじさいハイキングコース』の中腹のため、そちらから行こうかと迷いましたが、最初はやはり、ゆっくり河口湖を眺めながら進みたかったので、ロープウェイにしました。以下、『カチカチ山』より。

よろこんでくれ! おれは命拾いをしたぞ。爺さんの留守をねらって、あの婆さんを、えい、とばかりにやっつけて逃げて来た。おれは運の強い男さ。」と得意満面、このたびの大厄難突破の次第を、唾を飛ばし散らしながら物語る。
 兎はぴょんと飛びしりぞいて唾を避け、ふん、といったような顔つきで話を聞き、
「何も私が、よろこぶわけは無いじゃないの。きたないわよ、そんなに唾を飛ばして。それに、あの爺さん婆さんは、私のお友達よ。知らなかったの?」
「そうか、」と狸は愕然として、「知らなかった。かんべんしてくれ。そうと知っていたら、おれは、狸汁にでも何にでも、なってやったのに。」と、しょんぼりする。

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 入口を入ると、太宰治を紹介するコーナーが設けられていました。そのうちの1つが上の写真になります。文学碑等が紹介されていますね。
 
 狸汁にされそうになった愚鈍な中年狸は、婆さんを怪我させてしまったことにより、汚れを知らぬ美少女の兎の怒りを買ってしまう。
兎にはもうこの時すでに、狸に対して或る種の復讐を加えてやろうという心が動いている。処女の怒りは辛辣である。殊にも醜悪な魯鈍なものに対しては容赦が無い。
 さらに、しゃべりながらそこら辺にある木の実や昆虫などを食べる、食い意地の張った狸をひどく軽蔑し、『傍へ寄って来ちゃ駄目だって言ったら。くさいじゃないの。もっとあっちへ離れてよ。あなたは、とかげを食べたんだってね。私は聞いたわよ。それから、ああ可笑しい、ウンコも食べたんだってね。』と罵る。ここでまず私は、読んでいて吹き出してしまった。兎はこの狸を下品で汚いと、ひたすら軽蔑する。まるで女子高生が冴えないサラリーマンの親父を軽蔑するかのごとく。

 しかし、兎はなにか策略を思いついたのか、条件付で1度だけ許すことを提案した。『こんど一ぺんだけは特別にゆるしてあげるけれど、でも、条件があるのよ。あの爺さんは、いまごろはきっとひどく落胆して、山に柴刈りに行く気力も何も無くなっているでしょうから、私たちはその代わりに柴刈りに行ってあげましょうよ。」
「一緒に? お前も一緒に行くのか?」狸の小さい濁った眼は歓喜に燃えた。

 狸が、もし自分が一心不乱に働いたら、自分と仲良くなってくれるか、と言うと『その時のあなたの成績次第でね。もしかしたら、仲よくしてあげるかも知れないわ。と、狸の心をどこまでも弄ぶかのような言葉をかける。一方の狸は、『その口が憎いや。苦労させるぜ、こんちくしょう。おれは、もう、」と言いかけて、這い寄って来た大きい蜘蛛を素早くぺろりと食べ、「おれは、もう、どんなに嬉しいか、いっそ、男泣きに泣いてみたいくらいだ。」と鼻をすすり、嘘泣きをした。

 こうして愚鈍な中年狸は、まんまと兎の誘いに乗り、1回目の仕打ちを受けることになるのであった。
 
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 写真は、ロープウェイから撮った河口湖です。天気は曇りのため、残念ながら富士山は今回も拝むことができませんでした。山々も靄がかかりはっきりとしません。
 記事は私なりに要約して書いているので、太宰の描く狸の下品さや、残虐性を備えた処女の兎の冷酷さが、あまり上手く伝わらないかもしれませんが、ご了承ください。
 次回は、有名な薪が燃える描写を書きたいと思います。

by dazaiosamuh | 2015-02-08 21:35 | 太宰治 | Comments(0)