太宰治 『佳日』舞台!目黒雅叙園 №2 宴会場

その日、小坂氏と相談して結婚の日取をきめた。暦を調べて仏滅だの大安だのと騒ぐ必要は無かった。四月二十九日。これ以上の佳日は無い筈である。場所は、小坂氏のお宅の近くの或る支那料理屋。その料理屋には、神前挙式場も設備せられてある由で、とにかく、そのほうの交渉はいっさい小坂氏にお任せする事にした。

 上記の『支那料理屋』というのが、目黒雅叙園のことです。『佳日』の主人公は、慣れない結婚式の準備に悪戦苦闘し、大隅君の横柄な態度に苛立ちながらも、何とか日取を決め、当日を迎えることになります。
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 目黒雅叙園の宴会場は2階から上階になります。実は、この『佳日』は映画化もしており、その際、撮影のロケにも、この目黒雅叙園が利用されました。しかし、残念ながら『佳日』はDVD化はおろか、ビデオ化もされていませんので、見ることはできないようです。いつか見れる日は来るでしょうか。
 とりあえず私は、4階まで上り、通りかかったスタッフに「会場を見させてもらうことはできますか」と尋ねると、「使われていない会場でしたら、ご自由にご覧になれます」と言われ、写真もOKと聞き、ならば遠慮なくと、ひたすら扉を開きまくり、パシャパシャ写真を撮りました。開いては写真を撮り、開いては写真を撮りを繰り返し、もはや、どこがどこの部屋だか、まるで覚えていません。
 本来、部屋にはそれぞれ名前が付いているのですが、さっぱり覚えていない有様です。
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 部屋によって、照明等、雰囲気がまるで違います。私が来たときは、セミナーの会場として使われている部屋もありました。

四月二十九日に、目黒の支那料理屋で大隅君の結婚式が行われた。その料理屋に於いて、この佳き日一日に挙行せられた結婚式は、三百組を越えたという。大隅君には、礼服が無かった。けれども、かれは豪放磊落を装い、かまわんかまわんと言って背広服で料理屋に乗込んだものの、玄関でも、また廊下でも、逢うひと逢うひと、ことごとく礼服である。さすがに大隅君も心細くなった様子で、おい、この家でモオニングか何か貸してくれないものかね、と怒ったような口調で私に言った。そんなら、もっと早くから言えば何か方法もあったのに、いまさら、そんな事を言い出しても無理だ……(中略)、「君は仕合わせものだぞ。上の姉さんが君に、家宝のモオニングを貸して下さるそうだ。」
 家宝の意味が、大隅君にも、すぐわかったようである。「あ、そう。」とれいの鷹揚ぶった態度で首肯いたが、さすがに、感佩したものがあった様子であった。
「下の姉さんは、貸さなかったが、わかるかい? 下の姉さんも、偉いね。上の姉さんより、もっと偉いかも知れない。わかるかい?」
「わかるさ。」傲然と言うのである。瀬川先生の説に拠ると、大隅君は感覚がすばらしくよいくせに、表現のひどくまずい男だそうだが、私もいまは全くそのお説に同感であった。
 けれども、やがて、上の姉さんが諏訪法性の御兜の如くうやうやしく家宝のモオニングを捧げて持って私たちの控室にはいって来た時には、大隅君の表現もまんざらでなかった。かれは涙を流しながら笑っていた。


 大隅君は礼服を持っておらず、万策尽きたと思ったところで、上のお姉さんが家宝のモオニングを貸してくれたことにより、無事に挙式を迎えることができました。
 ちなみに、映画の方はというと、昭和19年1月、東宝映画から『佳日』の映画化の申入れがあり、9月に「四つの結婚」と題して上映された。出演者は、入江たか子、山田五十鈴、志村喬、高峰秀子、山根寿子、他。
 長篠康一郎の『太宰治 文学アルバム』によると、『この映画で主演した女優・入江たか子とは、『佳日』の舞台となった雅叙園の創立者細川力蔵夫人(東坊城敏子)の令妹、東坊城英子の俳優名である』らしい。

 雅叙園で有名な百段階段も見たかったのですが、私が来た時は公開されていませんでした。しかも、事前の予約も必要なため、どちらにしても見ることはできなかったようです。
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 そのまま何も食べないで帰ろうかと思っていたのですが、、おいしそうなキャラメルパンケーキがあったので、食べて帰りました。
 見た目はとても甘そうですが、甘味を抑えた、大人のパンケーキに仕上がっています。
 注文の品を持ってきた女性スタッフに、「昔、ここで太宰治の『佳日』の映画化で、ロケ地として使われたそうですが、何か詳しい話をご存じないでしょうか。』と尋ねると、詳しい話は分からないと言われました。残念ですね。

 アイスコーヒーとキャラメルパンケーキで約2000円…。
『佳日』は心温まる話で終わりましたが、私の懐は寒くなる、そんな日でした。
 







by dazaiosamuh | 2014-10-10 18:30 | 太宰治 | Comments(0)