人気ブログランキング | 話題のタグを見る

太宰治と弘前 №11 高評価だった英作文

 太宰治は弘高時代、英作文が非常に得意で外国人教師からも高い評価を受けている。
二年のときの英人教師はロンドン大学(?)出のブルールという人で、いろいろな題を出して、生徒に作文を書かせたが、津島が「戦争の真の原因は何か」という題について書いたものはその教師に激賞された。ブルール教師は、津島の文章を最優秀と評したばかりでなく、もしその文章が作者の創作であるならば、それは大きい(発展の)見込を示すだけでなく、その陰にある頭脳をも示していると評した。津島は「猿面冠者」の中でこのことを昂然と書いている。ただし彼は最優秀と評された作品の題を「真の幸福とは何か」(優秀と評された作品)にし、葛西善蔵の説を引用して書いたように変えている。ブルール教師去った後三年生を担当したケンブリッジ大学出のロシター教師の課した作文においても津島は最高点をとった。』(「太宰治の思い出」大高勝次郎)

 教師が変わっても最高点を取るということは、やはり英作文の才能があったのですね。作家としての才能は英語の授業でも発揮されていた。
太宰治と弘前 №11 高評価だった英作文_c0316988_12483289.jpg
 こちらは太宰が弘高時代に書いた英作文の一部。お題は『KIMONO』でブルウルが評価を付けている。
"KIMONO"
Do you know why japanese costume has two big "SODE”.
Perhaps, you do not know.
This "Sode" has an interesting story.
I will tell it to you.

Long long years ago, there was a very very fair woman.
She was so tender and fair many men of that day wrote to her many love-lettres.
It she took a walk, men flung their letters into her pocket.
At last, she had no space to receive their letters on her person.
And then that very clever woman made "SODE" in her costume.

Is this story not interesting, Sir?

All japanese wish to have love-letters flung to them.
』 Good

太宰治と弘前 №11 高評価だった英作文_c0316988_12491942.jpg
 昭和42年6月に審美社から出された『太宰治研究』の第8号に、和訳がありました。
着物
 日本の衣裳が何故二つの大きな「袖」(ソデ)を持っているか知っていますか?(訳者註、二つの大きな袂(タモト)と言うべきではなかったろうか)
 恐らく、あなたは御存じないでしょう。
 この「袖」については、面白い話がありますので、それをお話ししましょう。
 むかしむかし、非常に非常に綺麗な女のひとが居ました。非常にやさしく綺麗だったので、当時の多くの男達は、彼女に、沢山の恋文を書いて送りました。
 その女(ひと)が散歩に出ると、男たちは、彼女の物入れ(ポケット)に手紙を投げ入れました。
 さいごには、彼女のからだのどこにも、男達の手紙を入れて置く場所がなくなってしまいました。
 そこで、その非常に利口な女の人は、彼女の着物に「袖」をつくったのです。
 先生、この話、面白いと思いませんか?
 すべての日本人は、恋文を貰いたいと思っているのです。

 (訳者註、この行は教師が太宰のはじめの英文の表現に手を入れて直したあとと、一行あけて、教師自身の表現を示してあり、評価はgoodとあるが、外人教師は概して甘いのが普通であるから、後年の太宰のフィクションへの才能の片鱗を思わせるような点が、ややうかがわれる。

 私のように英語が苦手で、辛うじて1行書けるかどうかの人間からすると、やはり太宰は秀才だったのだなと改めて実感させられます。
 英作文は他にも、「真の幸福とは何か?」「戦争の真の原因」「酒やアルコール飲料の販売は制限されるべきか?」などが残っており、その和訳はすべて前述で書いた、審美社が出した『太宰治研究』第8号に載っています。(すべて石沢深美訳)
 ちなみに、「The Real Cause of War」(戦争の真の原因)は、Most Excellentの評価で、『この文章は、完全に君自身が考えたものか? 若しそうなら大変有望であるばかりでなく、背後に、ある才能のひらめきを感ずる』と外国人教師を驚かせている。
 訳者はしかし、『太宰少年の言おうとしていることは大体分るが、決してお世辞にも達意の文章とは言えない。』と書いている。

 どちらにしても私のような凡人から見れば、秀才にちがいないが。
 太宰治の英作文について書きましたが、太宰治と弘前の記事はこれで最後になります。

Commented by tarukosatoko at 2016-04-21 12:32
才能があふれていますね、驚きました!まさに、「背後に、ある才能のひらめき」です。
Commented by dazaiosamuh at 2016-04-22 20:53
> tarukosatokoさん
すごいですよね!!初めて太宰の高校時代の英作文を見た時は驚きました。
太宰のことを知れば知る程、自分とは天と地の差もあるのだなと、毎度のことながら改めて実感します。
by dazaiosamuh | 2016-04-17 12:59 | 太宰治 | Comments(2)