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太宰治 知る人ぞ知る! 銀座のバー・ルパン №2

おい、俺も撮れよ。織田作ばっかり撮ってないで、俺も撮れよ

 銀座のバー・ルパンに来た目的は、太宰が座ったであろうポジションにて座り、しかも、似せた服装、ポーズで撮影することであった。もちろん、その場所で太宰気分に浸りながら酒を飲み、マスターから太宰の話を聞くことも目的の一つだ。
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 現在のビルばかりが建ち並ぶ銀座の町並みとは打って変わって、店内は落ち着いた昭和の雰囲気が醸し出されていた。このルパンで太宰の有名な写真が撮られたのは、昭和21年11月25日で、この日、太宰、坂口安吾、織田作之助と、実業之日本社主催の座談会に出席した。この時、織田は1時間程遅刻してきたのだが、太宰と安吾は座談会開始前に、すでに酩酊していたらしい。この座談会の記録は、翌年4月20日付発行の「文学季刊」第3輯に「現代小説を語る」と題して掲載された。さらに同日、同じく3人で改造社主催の座談会にも出席。この記録は、「改造」には未掲載のまま、昭和24年1月1日付発行の「読物春秋」新年増大号に「歓楽極まりて哀情多し」と題して掲載。そして、最後にここ、バー・ルパンに来たというわけだ。
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 店内には太宰、安吾、織田の写真が飾られている。写真を撮っていいですか、というとマスターは快く返事をしてくれた。それどころか、ポーズのとり方まで教えてくれた。友人Sさんに撮影を頼み、早速、撮ってみることにした。マスターが、フラッシュなしの方が太宰の写真のように雰囲気が出る、と言っていたが、撮ってみるとどうもいけない。上手くピントが合わないのか、ぼやけてしまう。何回も挑戦したが、三脚でも用意しなければ中々難しい。そのため止むを得ずフラッシュでの撮影にした。
 私はただポーズをとっているだけだから良いが、Sさんは、撮影にかなり苦心したようだ。今か今かと、私はひたすらベストショットが撮れることを心の中で祈りながら、太宰ポーズに集中した。

 Sさん「撮れましたよ、どうですか。確認お願いします」




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 えっ!太宰治!?
 
 いえ、よく見たら自分でした。自分でまじまじと見ながら、うっとりしました。まさかこんな日が来るなんて、しかも、写真の右上をよく見ると、太宰の写真が写っています。まさかのツーショット。同じポーズでまさかのツーショットです。Sさんは、これを狙って撮ってくれたのか、それとも奇跡(太宰のいたずら)なのか。
 私は、この日のために、気温が30℃近くまで上がる中、ベストにネクタイ、ブーツを着用して臨んだのだ。この時を以ってして報われたのだ。ちなみに、太宰は兵隊靴ですが、この撮影のためだけに、少しでも似せようと、私もミリタリー使用のブーツ(3万円)を買いました。
 太宰はルパンで何の煙草を吸っていたのか、マスターに尋ねてみましたが、分からないみたいです。一応、私は太宰が吸っていた有名な煙草「ゴールデンバット」を指に挟んで撮影しました。ズボンは、太宰はウール素材を穿いていたようですが、この時期、どこのお店にいってもウール素材のズボンは売っていなかったため、今回はスーツにしました。(写真をよく見ると、左足の位置が少し違うが、まあ上出来だろう)

 私とSさんは、興奮を抑えつつ太宰の座っていた場所に座り、お酒を頼みました。マスターに、太宰はよく何を飲んだのかと聞くと、やはり、ビール、日本酒、ウィスキーだったそうです。私はお酒は弱いのですが、せっかくなのでウィスキーを飲んでみました。うむ、やはり私にはきついです。
 しかし、飲んでいる最中、マスターが「このウィスキーのグラスは、太宰がいた当時からあるものです。今では数が無く、かなり貴重ですよ」と言ってきたので、「えっ、では、もしかしたら、太宰もこれを使ってウィスキーを飲んだりもしたのでしょうか」と言うと、「そうかもしれません。可能性はあります」と言った。
 なんということでしょう!私はもしかしたら、60年以上の時を超えて、太宰と間接キスをしたかもしれないのです(太宰は好きだが、別に太宰とキスしたいとは思っていないですし、そういう趣味もないことは、一応、言っておく)。
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 太宰のルパンでの写真は、今でこそ有名な一枚だが、マスターによるとそんなにここへは来たことはなかったようです。ちなみに、撮影者は林忠彦で、織田作之助を撮っていると、太宰が『おい、俺も撮れよ。織田作ばっかり撮ってないで、俺も撮れよ』と言い、林はムッとしたが、今売り出し中の太宰と分かると、しめたと思って撮ったのだ。しかも、カメラのフラッシュバルブの残りがたった1個しかなく、後ろの便所のドアを開けて、便器の上に寝そべるようにして撮った、非常に貴重な1枚だったらしい。
 マスターが、「後ろの便所のドアも当時のままなので、太宰がドアノブを握ったかもしれませんよ、握れば、間接的に太宰を感じることができるかもしれませんね」と言った。
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 そう言われたら握らないわけにはいかない。早速、ドアノブを握ると、おや、と思った。一瞬、温かい肌に触れたような感触であった。もう一度握るが、今度は感じられなかった。太宰のいたずらかなと思い、少し微笑んでしまった。

 その後、私とSさんは太宰席でビール等を飲みながら歓談し、お店を出て行くのですが、ここで写真を撮れたことと、もう一つ最高にうれしかったことがありました。
 それは、私がマスターに「私みたいに、太宰の服装を真似て、同じポーズで写真を撮りに来る人は、やっぱり、いるんですよね」と訊くと…。
 「いえいえ、いませんよ、お客様ぐらいですよ。ポーズを真似る人はいても、服装まで真似して来られた方はお客様だけです」と言われた事でした。最高に嬉しかった。今まで生きてきて、一番感激した瞬間かもしれません。

 1時間ほど飲み、私とSさんはマスターにあいさつし、マスターも「また来てください」と言い、お酒に酔っているのか、太宰に酔っているのか、自分でも分からない、夢心地の気分でルパンを後にしました。

 苦心しながらも撮影してくださったSさん、そして親切なマスター、ありがとうございました。


by dazaiosamuh | 2014-06-28 14:17 | 太宰治 | Comments(0)